遺言書(遺言)を作らなければ、法律の定めに従って法定相続人(家族・遺族、参照:遺言書がない場合は誰が相続するのか)が相続することになります。
しかし、遺言書を作成すると、法定相続人以外の人に遺産を譲る(贈る)ことが可能となります(民法964条)。
遺産を贈るので「遺贈」と呼びます。
(包括遺贈及び特定遺贈)
民法第964条
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
遺贈をする相手は、相続人(家族)を指定することもできますし、家族ではないまったくの第三者を指定することもできます。
例えば、生前に恩を受けていた友人や知人、国や自治体、民間団体など、誰に対しても遺贈することが可能です。
遺贈するには遺言書の作成(参照:遺言書には3つの種類)が必要です。
相続人にも遺贈できる
遺贈は基本的には家族(相続人)以外の人に遺産を譲るために活用する制度と言えますが、法定相続人に対して遺贈することも可能です。
しかし、相続人は相続分があり、遺産を相続できる割合が決まっています。
本来は、相続分に応じて各相続人に遺産が分割されることになりますが、遺贈と相続分の関係には配慮が必要となっています。
遺贈を受けた相続人は、相続分の計算において、「特別受益の持ち戻し」を考慮しなければいけません。
実際の相続分の計算例
具体的な例を挙げながら、相続人に遺贈をした場合の相続分の計算方法を見ていきましょう。
今回のモデルケースでは、以下の表のように4人家族に登場してもらいます。
| 被相続人 | 夫(父) |
|---|---|
| 相続人 | 妻(母) |
| 相続人 | 長男 |
| 相続人 | 長女 |
表の「被相続人」というのは、亡くなって遺産を遺すことになる人のことをいい、相続人とは、遺産を相続する人のことを意味します。
つまり、今回のモデルケースでは、夫(父)が亡くなって、妻、長男、長女の3人が相続人として遺産を相続することになります。
なお、相続人や相続分について詳しいことは、「相続人と相続分」で説明していますので参照してください。
そして、遺産を4,000万円と想定して、各相続人の相続分(民法900条)を表にすると次のようになります。
| 相続人 | 相続分 | 金額(万円) |
|---|---|---|
| 妻(母) | 2分の1 | 2000 |
| 長男 | 4分の1 | 1000 |
| 長女 | 4分の1 | 1000 |
この表は、遺贈がなかった場合に想定される相続の金額となります。
遺贈があった場合
仮に、被相続人が遺言書で長女に対し「1,000万円を遺贈する」と指定した場合、全財産4,000万円から遺贈分1,000万円を引いた残りの3,000万円分を法定相続分で分割すればかんたんですが、実際には「特別受益の持ち戻し」を考慮しなければいけません(民法903条)。
特別受益というのは、生前に被相続人から受け取っていた金銭などがある場合(もしくは遺贈を受けている場合)のその金銭などのことで、それを相続分に組み入れて実際の相続分を計算することを「特別受益の持ち戻し」といいます。
つまり、今回の例では、長女が遺贈で1,000万円を受け取ることになりますから、これを相続分に組み入れると、長女の相続分4分の1(1,000万円)を満たしますから、長女は遺贈以外に相続することはできなくなります。
逆に、遺贈が500万円だったとすると、残りの500万円分もあわせて相続することができます。
(特別受益者の相続分)
民法第903条
第1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
第2項
遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
表にすると、次のようになります。
| 相続人 | 相続分 | 金額(万円) | 遺贈(万円) |
|---|---|---|---|
| 妻(母) | 2分の1 | 2000 | |
| 長男 | 4分の1 | 1000 | |
| 長女 | 4分の1 | 0 | 1000 |
特別受益の持ち戻しの免除
上に述べたように、遺言書で相続人に対して遺贈をすると、その分の財産も法定相続分に含まれてしまいます。
しかし、「特別受益の持ち戻しの免除」の意思を遺言書に記載することによって、相続財産から遺贈分を除外して相続させることができます。
持ち戻しの免除のためには、遺言書に「特別受益の持ち戻しを免除する」旨の記載をします(民法903条)。
(特別受益者の相続分)
第九百三条第1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
第2項
遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
第3項
被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
先ほどの例を使って表にすると、以下のような関係になります。
| 相続人 | 相続分 | 金額(万円) | 遺贈(万円) |
|---|---|---|---|
| 妻(母) | 2分の1 | 1500 | |
| 長男 | 4分の1 | 750 | |
| 長女 | 4分の1 | 750 | 1000 |
長女は1,000万円の遺贈を受けていますが、遺言書に「持ち戻しの免除」の記載をしたことで、法定相続分4分の1(遺産総額4,000万円から遺贈分1,000万円を引いた3,000万円の4分の1)の750万円を相続することができます。
遺贈の活用法
以上のように、相続人への遺贈は、特定の相続人を優遇する手段としてはあまり有効ではありません(最終的な相続の金額で調整されるため)。
特別受益の持ち戻しの免除を活用することで特定の相続人を優遇することは可能ですが、遺贈を利用しなくても、遺言書で各相続人の相続割合を指定するときに任意に相続割合を配分することでも実現できます。
したがって、遺贈の活用法としては、特定の財産を特定の相続人に確実に相続したい場合に利用します。
例えば、複数の不動産を所有している場合に、それぞれの相続人に割り当てて遺贈するなどの活用法が考えられます。
ただし、これも遺贈を利用しなくても、遺言書で誰に何を相続させるか指定することでも実現できます。
相続分と遺贈を活用して遺産の分割(相続)を調整するのは、考慮すべき要素が増えてしまいますから、被相続人本人の望む遺産分割を実現するのは難易度が高いと言えます。
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