殺人で借金返済から逃れられるか?

探偵ものなどのミステリーを見ていると、殺人の動機としてよく出てくるのが、お金を借りた相手を殺害して、借金の返済をまぬかれようとするというものです。
現実の事件でもまれに聞く殺人の動機ですが、果たして殺人は借金を帳消しにする有効な方法なのでしょうか。
その点について、若干考えてみることにします(注)。

(注)もちろん、読み進んでも借金帳消し目的の殺人を奨励する内容ではありません。
また、その他いかなる動機であっても殺人を奨励するものではありません。

お金を借りるということ

本題に入る前に、お金を借りるということを法的に整理しておきたいと思います。
そのほうが後々の説明がかんたんになります。

お金を貸す・借りる関係(いわゆる借金)においては、二人の当事者が存在します。
つまり

  • お金を貸す人
  • お金を借りる人

の二人です(民法587条)。

消費貸借
民法第587条
 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

お金を貸す人は、貸した相手からお金を返してもらう権利を持っています。
この、お金を返してもらう権利のことを「債権」といい、債権を持っている人を「債権者」と言います。
なお、貸したお金のことを「貸金」と言います。

反対に、お金を借りた人は、お金を貸してくれた相手に借りたお金を返さなければならない義務を負っています。
この、お金を返す義務を「債務」といい、債務を負っている人を「債務者」と言います。

したがって、殺人と借金について考察するこのページにおいては、加害者(殺す人)と被害者(殺される人)の関係を表にすると次のようになります。

殺す人加害者債務者
殺される人被害者債権者

殺す人は犯人ですから、借金目的の殺人においては、債務者が債権者を殺すことになります。
この、債務者(犯人)と債権者(被害者)の関係を頭に入れておいてください。

債権と債務の関係

なお、債権と債務の関係ですが、債務者(お金を借りた人)が借金(債務)を返すと債権は消えます。
言い換えると、債務者が借金を全額返済しない限り債権と債務(お金を返してもらう権利とお金を返さなければいけない義務)は残り続けます

殺人によって債務は消滅するか

さて、ミステリーでは、債務者(お金を借りた人)が借金の返済に困って債権者(お金を貸した人)を殺害することになります。
債権者が死んでしまえば借金(債権者にとっての債権、債務者にとっての債務)も消滅すると考えてのことですが、残念ながら、債権者を殺しても借金は消滅しません
債権と債務の関係について説明したとおり、借金という債権・債務は、債権者本人の生死とは関係なく存在しつづけます。

では、債権者の死後、債権(借金)はどうなるかというと、債権者の家族(遺族)が相続することになります(参照:相続方法は3種類)。
相続された債権(借金)は、債権者の死亡前とまったく同じものですから、債務者は、債権者殺害以前とまったく同じ条件での返済を続けなければいけないのです。
つまり、債務者は借金を帳消しにするために債権者を殺害しても、債権は消滅せず、返済の義務は残り続けます(注)。

(注)反対に、債務者(お金を借りた人)が死亡しても債務は残り続けます。

借金は消えない上に損害賠償が追加される

債務者にとってはさらに悪いことに、債権者の家族(遺族)は殺害者(今回の例では債務者)に対する損害賠償を請求する権利を取得します(民法709条、711条)。

不法行為による損害賠償
民法第709条
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

近親者に対する損害の賠償
民法第711条
 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

遺族は、相続した債権に加えて損害賠償請求権を取得しますから、債務者からすれば、既存の借金と損害賠償の二重の支払い義務を負うことになります。
つまり、債務者は借金の帳消し(負担の軽減)を目的として債権者を殺害したにも関わらず、殺害によって、結果として負担が倍以上に膨れ上がってしまうということになってしまうのです。
しかも、元の借金額よりも、損害賠償の額のほうが高額となる可能性があります。

ここまでの説明で、殺人による借金の帳消しは不可能であるばかりか、逆効果であることがお分かりいただけたと思います。

殺人は犯罪です

殺人は犯罪(刑法199条)ですから、殺害後は刑罰を受けることになります。

殺人
刑法第199条
 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

殺害者はたいていの場合、長期間の懲役を科されることになります。
刑務所に入っている間は収入が絶たれますから、借金の返済も損害賠償の支払いも事実上は不可能となります。
その意味では、殺害によって借金の返済から逃れることができたと考えることもできますが、この結果はおそらく債務者の望んだ結果ではないでしょう。

借金の返済に困ったらやるべきこと

殺人が割に合わないことは分かりました。
借金の返済に追い詰められた債務者がとるべき手段は債権者の殺人ではありません。
代わりに債務者がとるべき方法は以下の方法となるでしょう。

  • 債権者に返済を猶予してもらう
  • 返済1回ごとの金額を減額して返済期限・回数を増やす

まずは、債権者に現状を説明し、しばらく借金の返済を「猶予」してもらう(待ってもらう)ことを頼みましょう。
もし債権者が猶予を受け入れてくれなければ、1回ごとの返済金額を減額して返済回数を増やす、もしくは返済期限を延ばすことを提案してみましょう。

債権者としても、債務者に差し押さえるべき財産もなく、借金の返済が全く受けられないよりは、多少なりとも返済してもらうほうがいいので、いずれかの条件をのむメリットがあります。
もちろん、借金の返済の交渉は、誠意をもってあたらなければいけません。

なお、現実の金銭トラブルに関しては、お金を貸したほうがお金を返してくれないことを理由に相手を殺す事件のほうが多いような気がします。
実際に統計を調べたわけではありません。
日ごろニュースを見ていての感覚です。

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